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要町あさやけ子ども食堂 店主山田 和夫さん


池袋支社お客さまアドバイザー

みんなのあったかい居場所がここに
子ども食堂がつくりだすゆるやかなつながり

子どもの7人に1人が「相対的貧困」の状態で暮らしている日本(平成28年国民生活基礎調査による)。貧困率がより高まるひとり親家庭、家族それぞれが孤食になりがちな共働き家庭が増える中、子どもたちに、栄養のある家庭料理をワイワイとした雰囲気の中で食べてもらいたいという想いから生まれたのが「子ども食堂」です。2012年に東京都大田区でスタートして以来、子ども食堂は日本全国に広がり、子どもだけでなく、ボランティアや支援者として多くの方が関わる場になりました。

店主 山田和夫さんの自宅兼パン屋を改装した「要町あさやけ子ども食堂」は、池袋の要町にあります。子ども食堂オープンのきっかけは、山田さんの妻・和子さんが遺した一枚のレシピ。和子さんは亡くなるまで自宅でパン屋を開き、路上生活者の方へパンを配る活動を行っていました。パン屋は一旦閉めざるを得なかったものの、山田さんは和子さんの遺志を継ぎ、2011年に再開。すると、和子さんのパン教室に通っていた生徒さんがやってきて、「子どもたちのために何かやってみないか」と誘われました。それがきっかけで、2013年に「要町あさやけ子ども食堂」が誕生したのです。

今回は、池袋支社のお客さまアドバイザー(以下、お客さまAD)が「要町あさやけ子ども食堂」を訪れ、一日ボランティアとして活動させていただきました。池袋の要町にある一軒家の子ども食堂を舞台に日々生まれ続ける人と人とのつながりを通じて、フコク生命の原点である"相互扶助"そして、次代の"相互扶助"である「THE MUTUAL」について考えていきます。

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要町あさやけ子ども食堂 店主 山田和夫さん。子どもたちからは「山田じいじ」の愛称で親しまれています

「子ども食堂」は
社会に必要とされた新しい居場所

お客さまAD 「要町あさやけ子ども食堂」設立のきっかけや、これまでの歩みをお聞かせください。

山田 子どもにワイワイガヤガヤにぎやかな食卓を囲んでもらいたい。日頃忙しいお母さんに、ほんの一食の時間でもゆっくりすごしてもらいたい。そんな想いから2013年3月にオープンしました。
設立のきっかけを本音で話せば、僕は四人兄弟の末っ子ということもあるのか、甘えん坊なところがあるんですよ(笑)。妻を亡くしてこの先何十年も一人暮らしをしていくと思うと、にぎやかな方がいいなという気持ちもあったと思います。子どもの声を聞いているだけで、元気になりますよ!

お客さまAD 「要町あさやけ子ども食堂」がテレビで取り上げられたことで、子ども食堂が豊島区だけではなく日本全国に広がったとお聞きしています。

山田 マスコミから子ども食堂が「子どもの貧困対策」として注目されたんです。私は社会活動家でもないので最初は戸惑いましたが、子ども食堂が広まればという想いでテレビ取材は受け続けてきました。それを見た豊島区長も来てくれて、後日、活動費の半分を豊島区から拠出してもらえることになりました。

お客さまAD そういったサポートがあるとないとでは大きく違いますよね。

山田 そうですね。あとは、行政のお墨付きをいただけたのが大きかった。子ども食堂を始めて一番心配だったのは、近隣の方の反応です。「うるさいからやめてほしい、自転車が邪魔だ」といった意見がきたら、引っ越せないので辞めるしかない。マスコミが好意的に紹介してくれたり、行政が支援してくれたりして「子ども食堂はいい活動なんだ」と周りの評価が高まったことは、継続できた大きな理由です。

お客さまAD 今、子ども食堂が多くの方の共感を呼び、必要とされている理由は何だと思われますか?

山田 そんなつもりは全くなかったのですが、これまでなかった社会インフラのような存在なんだと思います。行政や大企業がカバーしきれなかった子どもの貧困や孤立を、部分的ながら解決できる手段として認められた。だから、こんなにもいろいろな地域で開かれているんだと思います。

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フコク生命の職員もボランティアとして子ども食堂のお手伝いをさせていただきました

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ごはんは高校生から80歳の方まで、大勢のボランティアの方々が作られています

ボランティアが生み出す温かさが、
子どもと親のよりどころになる

お客さまAD ボランティアをさせていただいて、子ども食堂は、誰もが楽しめるアットホームな場だと感じました。

山田 普段、食堂に来てくれた人に「なんで来てくれたんですか?」「来てみてどうでしたか?」なんて聞かないから、どの辺がいいのかわからないんだけど、ある日、日にちを間違えてきた親子に「今日はやってませんよ」と伝えると、お子さんが泣いてしまったんです。あぁ、子どもにとってそういう場所なんだと実感させられましたね。楽しみにして、わざわざ来てくれる場所だったんだと。価値は言葉にできないけど、何か感じてもらえていたらうれしいです。

お客さまAD 親子連れが来られた時に、ボランティアの方がお子さんに「久しぶり」と声をかけていたんです。その声かけが温かくて、私までうれしくなりました。

山田 親御さんも、ここに来ると少し気持ちが楽になるみたいですね。特にひとり親家庭の方は、普段から子どもと一対一なので、ちょっとした子どもの行動にイライラしてしまう。でもここに来ると、親御さん同士もお話しながら食事するので、子どもばかり見なくてもよい。それがいいんです。僕には2人男の子がいて孫は9人もいるんですが、孫たちの様子を見ていると、子どもは子ども同士の関係の中でちゃんと育っていくんだなと思います。親たちはそれを見守っていればいいんだと、僕も今更ですが気付かされます。

お客さまAD 子ども食堂のボランティアの方は地元の人たちが多いんですか?

山田 ご近所だけでなく、電車で一時間半かけて来てくれる方もいらっしゃいますよ。子ども食堂の主役はボランティアの方々なんです。彼らが楽しそうに明るく美味しいごはんをつくってくれる食堂は、必ず人が集まってくる。ボランティアの方々がどれだけ楽しく活躍できる場をつくるかが私の仕事です。

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子ども食堂の2階のプレイルームで元気いっぱいに遊ぶ子どもたち

社会での役割を感じられたら、
そこは自分の居場所になる

実際に「要町あさやけ子ども食堂」でボランティアをされている方にもお話を伺いました。

お客さまAD ボランティアの理由やきっかけをお聞かせください。

中学生 学校でボランティア活動が推進されていて、以前からボランティアに興味があり、茅ヶ崎の海辺の掃除などを経験してきました。「要町あさやけ子ども食堂」での活動は、友達に勧められて始めました。地元は市ヶ谷で、電車だと結構近いんです。料理は難しいけど、今日も子どもと楽しく遊びたいと思います。

お客さまAD 今日はどんなお食事メニューですか?

女性 今日はかぼちゃのひき肉和えと、にんじんのしりしりカレー風味。キャベツの炒め物はクミンで香りづけしています。あとは白菜と甘夏のサラダと、白菜とニラのお味噌汁です。野菜たっぷりのメニューは、料理長のふじこさんが考えてくれています。みんなで食べると、子どもは嫌いなものもつられて食べちゃうことが多いみたいです。

お客さまAD 山田さんは子ども食堂以外に様々な活動をされていますが、その活動についてもお聞かせください。

山田 子ども食堂を開く前から、妻と自宅で「あさやけベーカリー」というパン屋を開いていました。妻の遺志を引き継いで今もパンを焼いていて、毎週水曜日の9時半から池袋駅の東口と西口で路上生活をされている方にお配りしています。
パンを焼くのは、元路上生活者の人です。路上生活者のOBが現役を支えるっていう表現が正しいのかはわかりませんが、パンを焼くことで、自分にも役割があると感じてもらえるはずだと信じています。

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中学生のボランティアが子どもたちの遊び相手になっていました

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野菜たっぷりのメニュー

人は生きていれば迷惑をかけてしまう。
許し合えるお互いさまの社会に

お客さまAD 生命保険の営業活動は、多いときには一日十数名もの方の人生に向き合う仕事です。山田さんも様々な背景を持つ方々と関わられていますが、その中で心がけていること、大切にされていることはなんですか?

山田 子ども食堂は「この場だけの支援」で、保険の営業活動は「伴走的支援」。食堂に来ていない間のことは知らなくてもいいというのは、ある意味ドライだと思うことがあります。でも、もし共通していることがあるとすれば、その方が話したくなるまでじっくり待つという姿勢かもしれません。
また、少し前から「人に迷惑をかけるのは悪」という価値観が社会を覆っていることが気になっています。人間なんてそこにいるだけで、迷惑をかけずには生きていけない存在。周りの迷惑も許して、自分も許される、そんな関係性を大切にしたいです。

お客さまAD そうですね。一方向ではないお互いさまという関係性が私たちも大切だと思います。いま、フコク生命は「THE MUTUAL」(共感・つながり・支えあい)というコンセプトで100周年プロジェクトに取り組んでいますが、共通するところがありますね。最後に「要町あさやけ子ども食堂」の目指す未来像をお聞かせください。

山田 要町という地域に根差した活動をしたいので、この先は「子どもじじばば食堂」を開けないかと考えています(笑)。この町には一人住まいの年配の方がすごく多いんですが、子ども食堂にはあまり来てもらえません。こちらから「あなたのことを支援したい」と言うと、断られる可能性が高い。でも「あなた、ここにきて料理してくれない?」などと頼むと、意外とやってくれるんです。誰にとってもあったかい居場所をつくるために、意図を持って仕掛けないと人と人とはつながることができない。子ども食堂は、人を孤立させない仕組みの一つなんだと実感しています。

お客さまAD まさに「THE MUTUAL」ですね!ほんと素敵だと思います。

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最後にごはんをごちそうになりました

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自然と笑顔がこぼれるあったかい食卓でした

要町あさやけ子ども食堂

2013年に池袋の要町にある店主 山田和夫さん(「山田じいじ」)の自宅兼パン屋を改装した、一軒家の子ども食堂。子ども一人でも来られる、みんなのあったかい居場所をつくりたいという思いで運営されている。地域に根ざした地道な活動が認められ、きずなづくり大賞2014の最優秀賞「東京都知事賞」を受賞した。

https://www.asayake-kodomoshokudo.com/

池袋支社 お客さまアドバイザー

編集後記

池袋支社 お客さまアドバイザー

ボランティアの方からも、そして子どもたちからもエネルギーをいっぱい頂きました。こんなにあったかい場所が住宅街にあることに驚きましたし、出会ったばかりの子どもたちが楽しそうに遊んでいて、自宅の近くにあったら通い詰めていると思います(笑)。
私たちも日々お客さまと対面で接しています。だからこそ、誰もが居心地よくいられる場を生み出している山田さんの「人との接し方」に心を動かされました。今後もボランティアの機会を見つけ、子ども食堂で感じた人と人とのつながりを仕事でも活かしていけたらと思います。

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