2025年4月に代表取締役社長に就任いたしました渡部毅彦でございます。平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。
創業以来、相互会社形態を貫く日本で唯一の保険会社の長として、「お客さま」「地域・社会」「職員」という当社の主要なステークホルダーにとって「最優の生命保険相互会社」となるべく努めてまいります。
フコク生命は、株式会社生保のトップセールスマンだった第二代社長の吉田義輝が、真にご契約者のことだけを考える相互会社を作りたいという想いで、当時鉄道王といわれた根津嘉一郎を何度も何度も説得して、1923年に創業された会社です。初代社長に就任した根津の資本家としての「徹底的に利益にこだわる経営スタイル」と、吉田の「相互扶助にかける熱い想い」という二つの源流のもと、フコク生命は、必要であればリスクを取り、差別化戦略で収益力を高める一方、保険の公共性を常に意識し、相互会社としての使命を着実に果たすよう注力してきました。
「フコク生命がフコク生命であり続ける」ためには、役職員一人ひとりが、フコク生命が生命保険事業を始めた原点や、創業以来、脈々と受け継がれてきた想いを共有していなければなりません。根津の想いは「最大たらんよりは最優たれ」という社是として、吉田の想いは「お客さま基点」という価値観や、次代の相互扶助を考える「THE MUTUAL」(ザ・ミューチュアル)というコンセプトとして、我々の心にしっかり根付いています。
100年を超える歴史を刻んできたフコク生命が、根底にある軸をぶらさず、この変化していく社会で「フコク生命らしさ」を貫くためには、あえて変わることも必要です。今年度からスタートした中期経営計画「THE MUTUAL ACT 2027」は、そういった問題意識から策定しました。
フコク生命は、「最大たらんよりは最優たれ」を社是とし、規模を求めるのではなく、質を重視する経営を実践しています。これはフコク生命の経営のDNAであり、一番の拠り所でもあります。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、無理な規模の拡大を図り多額の損失を計上した同業他社が相次いで破綻する、「生保危機」と呼ばれる出来事がありました。そうした中で、フコク生命が、バブル経済に踊らず堅実経営を貫いて生き残ったのは、この社是があったからこそといえます。その後のリーマンショックや東日本大震災、さらにはコロナ禍を経て、生命保険会社として、いかなることがあっても保険金等を確実にお支払するために健全性の強化に努めた結果、2023年度には自己資本が初めて1兆円を超えました。
「最大たらんよりは最優たれ」を実践するうえでは、「守るべき時には守り、攻めるべき時には攻める」という姿勢が必要です。近年は、自己資本の充実に裏付けされたリスク・テイクによって、資産運用を中心に収益力を強化する取り組みを進めており、異次元緩和下で利回りの低い超長期国債への投資を抑制し、米国が金融引き締めに入る前に為替ヘッジを大幅に削減したことなどは、差別化された資産運用を行う会社として高く評価されています。こうした実績に基づき、保険金支払い能力を客観的に示す格付けは、2023年に3社、2025年に1社から格上げされました。特に米国の格付会社スタンダード・アンド・プアーズからは、「自己資本と収益力」において最上位の「極めて強い」との評価を受けています。
今、フコク生命は「最優の生命保険相互会社」を目指しています。そのためには、相互会社としての主要なステークホルダー、それぞれに対して最優である必要があります。「お客さま」に対しては、充実した配当還元とコンサルティングセールスで圧倒的にコストパフォーマンスがよい商品やサービスを提供していること、「地域・社会」に対しては、相互扶助の精神にあふれた取り組みを積極的に推進し、企業として信頼されていること、そして「職員」に対しては、業界トップクラスの給与水準と働き方を提供していること、これがフコク生命の描く「最優の生命保険相互会社」の姿です。これらを実現するために、まずは健全性と収益力をもう一段高めることが欠かせず、それが社長としての私の役割と考えています。
生命保険は生活に密接に関連する公共性の高い事業です。保険業法は第一条で保険業の公共性を規定していますが、公共性とはご契約者を守ることです。フコク生命は創業以来「ご契約者の利益擁護」を経営理念に掲げています。この経営理念を実現するためには、株主が存在せず、ご契約者一人ひとりが構成員(社員)となる相互会社が最適であると考えています。生命保険は生涯にわたり、お客さまの契約を保障します。相互会社は株主がいないため、社員であるご契約者の利益に専念した経営を遂行し、配当還元を行うことができます。
相互会社であるフコク生命は、お互いに助け合う人たちをつなぐ役割を担っています。わたしたちは人と人の間で、人と人の想いをつなぎ、その生活を守るために存在しています。人と人がつながるためには、共感が必要です。共感からは信頼が生まれ、信頼からは安心が生まれます。したがって、フコク生命は安心をFace to Faceでお届けしたいと考え、対面にこだわります。もちろん、対面を望まないというご要望にも柔軟にお応えするために、ITやデジタルを活用し、お客さまの立場にたった対応に努めています。引き続きリアルとデジタルを効果的に組み合わせた活動に取り組んでまいります。
今年度からスタートした中期経営計画では、フコク生命の経営ビジョンである「お客さま満足度No.1の生保会社となる」ことを目指し、「運用と保険、両輪での成長に向けた取組み」と、「お客さま」「地域・社会」「職員」との共感・つながり・支えあいの深化に向けた「ステークホルダー別の取組み」を推進してまいります。
最優の生命保険相互会社を目指し、配当還元の拡充や職員の処遇改善をさらに進めていくためには、利益成長が不可欠です。フコク生命はこれを、海外保険会社の買収や他業態への進出ではなく、国内生保事業に集中することで実現します。
強固な自己資本を裏付けとしたリスク・テイクによる優れた収益力のさらなる向上を図る「運用と保険、両輪での成長に向けた取組み」を推進します。具体的には、資産運用によるリスク・テイクのもと利差益のさらなる増加を図ります。それを広告宣伝やシステム投資の拡充など、必要な投資に充てることで、コンサルティングセールスの高度化を進め、保険収支の向上につなげていきます。強固な自己資本を活用し、保険収支でも収益力や生産性を高めていくことができれば、国内市場でもさらに成長することができます。さらに、収益力や生産性が高まることで、配当還元の加速や職員への処遇改善が可能となり、新たなリスク・テイクの余地や成長の源泉を生み出す好循環を構築することができると考えています。
フコク生命は株式会社ではありませんので、主なステークホルダーは「お客さま」、「地域・社会」そして「職員」となります。ステークホルダー別の取組みについては、若手・中堅職員を中心としたボトムアップで考える施策によって、「各ステークホルダーにとっての満足度No.1」を目指します。
まず、お客さまについては、「フコク生命ファン」をコンセプトとし、他業態の実例も参考にしながら、お客さまの「フコク愛」を育み、職員と感動を分かち合えるような機会を増やしていきます。地域・社会については、「『こども』と言えばフコク生命」をコンセプトとし、こどもとの絆を深めるコミュニティづくりを進めることとしました。職員については、お客さま満足度を高める原動力は職員であり、お客さま満足度の高い会社は職員にも愛される会社でなければならないと考え、「職員と家族に幸せを」をコンセプトに掲げ、職員の声による「働きたい会社『業界No.1』」を目指してまいります。
人件費や物価の継続的な上昇により、コスト削減による保険料の引き下げは今後ますます困難になると予想されます。こうした状況下では、単に保険料を安くするのではなく、会社が収益を上げ、それを配当として還元することで、お客さまの実質的な保険料負担を軽減することがより重要になります。2024年度決算では、個人保険分野の増配は13年連続となり、2025年度に10年目を迎える代表的な契約の10年累計配当金は、年換算保険料の1.2年分を上回ります。
中期経営計画「THE MUTUAL ACT 2027」では、2027年度に10年目を迎える代表的な契約の10年累計配当金を、年換算保険料の2年分まで引き上げることを経営指標としています。この水準に到達すれば、相応の価格競争力がついてくるとともに、お客さまの配当に対する満足度や期待も一層高まると考えています。今後も配当還元の拡充を最優先課題として取り組んでまいります。
デフレと日本銀行による異次元緩和政策の収束は、フコク生命にとってポジティブな変化と捉えています。「金利ある世界」においては、配当還元の拡充による実質的な保険料負担の軽減や、魅力的な貯蓄性商品の提供を通じて、お客さまの安定的な資産形成を支援することがますます重要になります。フコク生命は、2024年4月に個人年金保険「みらいプラス」の予定利率を年0.65%から最大年1.35%に引き上げました。さらに、2025年4月に発売した一時払終身保険「グッとアップ」の予定利率は年1.50%とし、円建・利率固定型の一時払商品として業界最高水準まで高めています。今後も「円金利の貯蓄性商品に強いフコク生命」として、お客さまの資産形成ニーズに応える商品・サービスの提供を続けてまいります。
デフレ時代に必要以上に保険の見直しが進んだことなどにより、加入している保険金額が本当に必要な保障額に達していない、いわゆるプロテクションギャップが拡大しています。生命保険文化センターの調査によると、プロテクションギャップは年々拡大し、直近では約5,000万円に達しています。
万一の備えは、リスクを日常的に認識することが比較的少ない子育て世代こそ重要であると考えます。フコク生命は、引き続きFace to Faceによるコンサルティングの強化を図り、プロテクションギャップの存在を認識していただいた上で、お客さま一人ひとりに適切な保障を提案してまいります。
保険業績においては、フコク生命の個人年金保険やフコクしんらい生命の一時払終身保険の販売が好調で、2社合算の新契約年換算保険料は、前年度比12.3%増となり、4年連続で増加しました。資産運用においては、フコク生命単体の利息及び配当金等収入が7年連続で過去最高を更新しました。保険会社の収益力を示す基礎利益は、2社合算で前年度比15.4%増加し、2年連続で過去最高となりました。健全性を示す指標である連結ソルベンシー・マージン比率は1,147.4%と、引き続き高い水準を維持しています。社員配当金については、「より早くより多く、長く続けていただいた方にはさらに多く配当をお返ししたい」という想いのもと、個人保険分野で過去最大となる101億円の増配を実施しました。
生命保険は相互扶助の精神で成り立っており、皆さまからお預かりした保険料は万一のことがあったお客さまに保険金等としてお支払いされています。2024年度には、2社合算で7,721億円の保険料をお預かりし、5,089億円の保険金・年金・給付金をお支払いしました。
生命保険は、お客さまとの一生涯にわたる、さらには世代を超える約束であり、終わりのない仕事です。私たちは、お客さまとの約束を未来永劫守り続けるために、創業の心と経営理念を受け継ぐ「人」を育てる環境整備に注力しています。
職員が「ご契約者本位」や「相互会社」という軸をぶらさずに日々の業務に取り組むことを促進するため、創業100周年を機に「わたしたちの基本」という小冊子を全職員に配付しました。この冊子は、第二代社長の吉田義輝が著した『勧誘と処世』を現代風に再編集したもので、創業の心や経営理念を具体化し、仕事に対する姿勢や行動の指針を「基本」として示しています。現代そして未来の職員一人ひとりが自分事として業務に取り組み、基本を積み重ねることで新たな価値を創造し、「お客さま基点」を実践してまいります。
また、私たちが大切にするのは、利他の心を持ったFace to Faceによる感情のコミュニケーションです。情報だけでなく、共感・つながり・支えあいを生む「場」の存在こそが、その原動力になると考えています。
フコク生命の人づくり基本方針にある「多様な個性を認め合う」風土を築き、「自発」「独創」「利他」を育むフコク生命ならではの人づくりを続けるとともに、職員一人ひとりのありたい姿を支援し、主体的な行動を促してまいります。